共栄ニュース2020年 7月号「長距離ドライバーの賃金」

2020/07/01

共栄ニュース 2020年 07月号(Vol.245):ダウンロード

大阪府下で長距離運行をメインに営業しているX社の悩みはドライバーの賃金です。労働組合と

の団体交渉においても、常に運行時間や賃金体系の違法性を追求され、組合との関係構築もスムー

ズには行かない状況です。

X社ドライバーの賃金体系は、基本給及び運行手当から構成され、法定労働時間を超える残業代につ

いては、運行手当に含まれているとの取り決めになっています。

便によっては、深夜運行を常態にしているドライバーも多くいます。荷主の都合上、休日運行も

しばしば発生しています。

X社の運行手当は、売上高に対する割合(%)で決められています。

先般、既に退職されたドライバー数人から突然、これまでの運行手当の算定基礎となる売上高

が事実と異なり、手当の支給額が不当に軽減されているとの訴えがありました。同時に、残業代支払

の基準が不明瞭で、運行手当のどの部分が残業代に相当するかについて明確な説明がなかったとの

主張もありました。

X社社長の考えでは、基準になる運賃収入は、実運賃ではなく、社内で取り決めしている社内運

賃を基礎にしており、残業代については、運行手当に含まれているとの説

明は、入社時に全員に説明しているということです。

■しかしX社社長の主張には無理があります。少なくとも、運行手当に残業代が含まれているとの

主張を通すのであれば、

①運行手当に占める残業代の割合を時間及び金額で具体的に示す

②そのことを対象となるドライバーに明示する

③就業規則(賃金規程)で規定する

④実際の残業代の計算の結果①で決められた割合を超えた場合は差額を支払

うとの条件を満たす必要があります。

単に運行手当の中に残業代が含まれているとの表現だけでは、主張に無理が生じます。こ

のことは営業担当者の営業手当にも言えます。営業手当には残業代が含まれているとの

主張についても無理があります。

■今回の騒動を機に、X社は賃金制度を改め、運行手当については運行ルート別に定額で定め、運行手

当の中に60~80時間分の残業代(深夜手当、休日手当を含む)を含むとの規定を新たに作成することに

し、具体的に何時間分の残業代を含めるべきかについてシミュレーションをしたところ、現状に比

べかなりの持ち出しが発生することが判明しました。同社の場合、対象となるドライバーは約70名、

基本給は15万円、1人当たりの運行手当の平均額は約20万円ですが、みなし残業時間を60時間に設

定したところ全体で1ヶ月約70万円の持ち出しになるとのことです。

■70万円の持ち出し金額の逓減を図るためには、以下の点が考えられます。

(1)残業単価を下げるために基本給を下げる(運行手当の比率を上げる)

(2)みなし残業時間を60時間以上に設定する

最終的にX社は、基本給を10%下げ、運行手当の比率を高めるとともに、みなし残業時間の設定を

70時間にしました。その結果、持ち出し金額は半減したとのことです。

但し、この場合最低賃金についてチェックする必要があります。

基本給を所定労働時間で除した金額と運行手当を総労働時間(残業時間を含む)で除した金額を合

算した1時間当たりの金額が地域の最低賃金(大阪府:964円)を上回る必要があります。残業代の支

払いと最低賃金の確保は、二律背反の関係にあるといっても過言ではありません。