共栄ニュース 2021年4月号「完全歩合給制度への転換」

2021/04/01

共栄ニュース 2021年 04月号(Vol.254):ダウンロード

 

長距離運行を主業務としているA社の課題は、長時間労働に起因する残業代の支払いでした。1か
月の残業時間は多い月で100時間に及ぶ場合も珍しくありません。
本年の4月から法改正により未払い残業代の訴求期間は3年間となり未払い残業代の訴訟リスク
がさらに高まります。A社の賃金体系は、固定基本給1日1万円と運行先別に設定している運行手当
で構成されており、乗務員の平均的な賃金額は月額45万円程度です。
A社は、昨年末に退職乗務員との残業代の紛争を経験し、これを機に完全歩合給制度の導入に踏
み切りました。

 

◆賃金制度に歩合給を導入した場合の比較表


(前提条件) 月例賃金 \450,000
所定労働時間  173時間 / 残業時間  100時間(深夜割増・休日割増除く)
①\450,000を所定内賃金とした場合
450,000/173×1.25×100=325,145 (※時間外手当として別途¥325,145の支給が必要)
②\200,000を固定的賃金、¥250,000を歩合給とした場合
(A)200,000/173×1.25×100=144,509
(B)250,000/(173+100)×0.25×100=22,894
(A)+(B)=167,403 (※時間外手当として別途¥167,403の支給が必要)
③\4500,000全額歩合給とした場合
(A)450,000/(173+100)×0.25×100=41,209
(※時間外手当として別途¥41,209の支給が必要)


(労基法改正内容)
・賃金請求権の消滅時効について、令和2年(2020年)4月施行の改正民法と同様に5年に
延長(ただし退職手当を除き経過措置で当分の間は3年)
・消滅時効の起算点が賃金請求権については賃金支払日であることを明確化
(歩合給の時間外計算の根拠)
・労働基準法施行規則 第19条第6号(割増賃金の計算の根拠となる賃金の計算)
・出来高払いその他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間に
おいて出来高払い制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期
間にかかる総労働時間で除した金額


 トラック乗務員の賃金制度については、完全歩合給制度の導入が労使双方にとってメリットがあ
ると判断される一面があります。運送事業の労働問題に精通している全国的に著名な某弁護士も推
奨しています。しかし導入に当たっては留意すべき事項があります。その最たるものは個人ごと
生じる新旧制度のもたらす有利、不利性です。制度導入により不利益を被る乗務員に対しては、一
定の「激変緩和措置」を採用する必要があります。
一般的には過去の一定期間の平均賃金と比較し大きく減少する乗務員に対しては一定額の調整
手当を支給することが考えられます。その場合においては、手当支給の対象者の基準、支給期間、
将来的に支給金額を段階的に解消するのか一定期間経過後全額解消するのか(単月精算方式or累積
精算方式)といったことを取り決めることがポイントとなります。