共栄ニュース 2021年6月号 「試用期間について」

2021/06/07

共栄ニュース 2021年 06月号(Vol.256):ダウンロード

大阪府下のA社は、今回乗務員を2名採用しました。
同社では慣例的に入社後3か月間は試用期間と定めています。入社3か月経過後1名は本社員に採用
されましたが他の1名は行動に問題ありとして本採用を拒否し期間満了後に解雇処分としました。
解雇された1名の者は納得できないと労働基準監督署に駆け込みました。A社は労働基準監督署か
ら事情聴取を受け、結果的に雇用を継続することになりました。A社の社長は、試用期間中であれば
期間満了後は本採用を拒否できるものと思い込んでいたようです。同社の就業規則にもその旨記載
されています。
A社のように、企業の多くは3か月から6か月程度の試用期間を設けています。試用期間の長さに
ついては特に法的な規制はありませんが1年以上の場合は不安定な身分のままで不当に長期間雇
用することは公序良俗に反するとして無効になった裁判例があります。

A社に限らず試用期間満了後の不適格社員の取扱いについては次の事項を留意し慎重に判断する必
要があります。


<試用期間取扱いの留意事項>

1.試用期間満了後の本採用拒否
試用期間は、法律上「解約権留保付き労働契約」であり、雇用契約の効力は発生していますが
事業主が不適格だと判断すれば契約を解約できるものとなっています。ただし、この場合でも
雇用契約自体は成立していますので法律的には試用期間満了後に本採用を拒否するためには、
解雇する場合と同様、客観的に「合理的で社会通念上相当」とされる理由が必要です。

前述のA社のように試用期間経過後に本採用を拒否するには次の点が必要です。
①本採用の取消し理由を就業規則に具体的に定めること
②入社時に本採用取り消しの場合の説明を行うこと
③試用期間中に問題点があれば、十分な注意、指導を行いその記録を残すこと
特に、試用期間経過後の本採用取り消しの有効性判断については上記③が重要な判断要素と
なります。

2.試用期間の延長について
試用期間中に正社員としての適性を判断できない場合に備え、試用期間を延長できる旨を就
業規則に規定する必要があります。ただしその場合においても合理的な理由に基づく延長の
みが認められます。
試用期間を延長する場合は、試用期間満了前に十分な期間をもって通知することが必要です。



◆A社への提言
A社のようなトラブルを未然に防ぐためには有期労働契約の活用が考えられます。
採用後は、例え試用期間を設定しても前述のように解雇のハードルは高くなります。
そのための対策の1つとして従業員をとりあえず有期労働契約で採用することが考えられます。
この場合において試用期間満了後は以下の選択が可能となります。
正社員として登用する
契約社員として更新する
期間満了で契約を終了する。
契約期間満了後に正社員として適正と判断すれば、もう少し様子を見るのであればを、自社
の従業員として不適格であればを、選択することができます。
※労務トラブルは規定だけではなかなか防ぐことはできません。
規定の効果的な運用が求められます。