共栄ニュース 2021年8月号 「最低賃金の上昇」

2021/08/05

共栄ニュース 2021年 08月号(Vol.258):ダウンロード

今年の最低賃金について、7月に厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会の小委員会
は、全国平均で28円を目安に引上げ、時給930円とすることに決めました。
最低賃金については2016年度から19年度まで毎年約3%ずつ引き上げられてきましたが、昨年度は
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を考慮した結果、引き上げ額の目安を示すことができず、結
果的に全国平均で0.1%(1円)に留まりました。その反動でしょうか、今年の28円の値上げ額は2002年
度に決定方式が現行の方式に採用されて以降、過去最高額となりました。
また従来は各都道府県を物価や経済状況に応じてA~Dのランクに区分けしランクごとに上昇額
の目安を示していましたが今回は一律28円としました。

目安通りに上がれば東京都は1,041円、大阪府は992円となります。
最低賃金の計算方法について厚生労働省のHPでも紹介されていますが次のとおりとなります。
①基本給120,000円 ②職務手当30,000円 ③通勤手当5,000円 ④時間外手当35,000円
=⑤支給合計190,000円の場合
上記項目の内③④は最低賃金の対象外ですので算定対象金額は①+②の150,000円となります。
仮に年間の労働時間を2,000時間(250日×8時間)としますと(150,000円×12か月)/2,000時間
=@900円となり、東京都、大阪府他、多くの地域で未達となります。


A社は、事業所で常時約100人前後の正社員(30人)、パートタイマー(70人)を採用しています。
社員の内約15人及びパートタイマー70人の時間換算賃金額は、ほぼ最低賃金額となっています。
同地区の最低賃金は現在927円ですが決定通り28円上がりますと、時給は955円となり今後1
年間の賃金上昇額は次のとおりとなります。
[A社の年間労働時間 2,080時間  対象労働者数 85人(正社員含む)]
28円(1時間当たり賃上げ額)× 2,080時間(年間労働時間)× 85人(対象労働者数)
=4,950,400円
上記から見られますようにA社にとっては1年間で約500万円の人件費増となります。
その上、さらに残業単価への影響が考えられます。
同社の1人当たりの平均残業時間は年間500時間です。
28円の基本時給の引上げは、残業単価でみれば35円となり同様の条件では約150万円の
増額になります。(28×1.25×500時間×85)


コロナ禍で所得格差が社会的に問題化している中、今回の最低賃金額の引上げについて日本商工
会議所など中小企業団体は、「極めて残念であり、到底納得できない。雇用に深刻な影響が出ること
を強く懸念する」とのコメントを発表しました。
コロナ禍で益々広がる所得格差が社会問題化していますが労働集約的事業の代表である多くの
物流事業者にとって、今回の最低賃金の大幅引き上げは経営的にかなりの苦境を迫られることにな
るのは間違いないと言えます。