共栄ニュース 2021年11月号 「減車の際の注意事項」

2021/11/01

共栄ニュース 2021年 11月号(Vol.261):ダウンロード

A社は大手荷主会社の請負を行っており大型車(10t)、普通車(4t、2t)を稼働しています。
しかしコロナ禍の影響も一部あり4t車の収益が極めて厳しく、先頃この部門を撤退、4t車の運行
を廃止することにしました。4t車の乗務員にその意向を伝え、2t乗務への変更若しくはそうでな
い場合は解雇する旨を伝えました。しかし数名の乗務員からは2t乗務への移動を拒否、解雇も受
け入れられないとの回答がありました。この場合においてどのように対応すればいいのかA社の社
長は悩みました。

類似の件で、本年3月福岡地方裁判所で注目すべき判決がありました。
事案の概要は、観光バス事業を営む会社が、コロナ禍の影響で観光バスの利用が大きく低下し、
事業内容を見直さざるを得ないとの会社側の判断から、福岡~大阪間の高速バスの運行を開始する
ことを決め、バス乗務員に対し従来の観光バス運行から高速バス運行への変更を求めました。とこ
ろが一部乗務員が承諾しなかったため会社側は当該乗務員を解雇したところ、乗務員側から異議申
し立てがあり解雇の正当性について争われたものです。(森山事件)
下された判決の概要は下記のとおりでした。


判旨>> 「事前のミーティングで(コロナ禍の影響による)人員削減の必要性に言及したものの、
人員削減の規模や人選基準等は説明せず、希望退職者を募ることもないまま、翌日の幹部会で解雇
対象者の人選を行い、解雇対象者から意見聴取を行うこともなく、直ちに解雇予告をしたことは拙
速と言わざるを得ず、本件解雇の手続きは相当性を欠くというべきである。」「高速バスによる事業
計画を乗務員に示し、乗務の必要性を十分に説明したとは認められないうえ、高速バスを運転する
か否かの意向確認は唐突」であったこと、観光バスと高速バスでは運転手の勤務形態が大きく異な
り家族の生活にも影響することを指摘して、ミーティングで(賛成に)挙手しなかったことをもっ
て解雇の対象としたのは人選の方法として合理的でない。


上記は、コロナ禍の影響による事業転換における解雇事案です。
整理解雇の場合に限りませんが、解雇の際には「手続きをきちんと踏む」ことが大切です。一般
的に経営の内容、方針については裁判所が介入することはあまりありませんが、手続きを守ったか
どうかについては、審査の対象となり実際に判決理由に手続きを守ったかどうかを重視する傾向が
強く見られます。今回について一部の専門家の見解によりますと、会社側は従業員を解雇しながら
新たに2名の乗務員を雇用したことについても、業務を高速バスに転換したこと、この転換に売上
減少という一定の合理性があること、高速バスに乗務する乗務員を確保するためという理由により、
整理解雇は必要と(裁判所は)理解しており、ただ手続きを守っていなかったことを理由にして解
雇不当の判決が下されたとの判断です。
これらのことからA社においても、4t車の収益事情が悪化しこの部門の事業を廃止せざるを得な
いことについては一定の合理性があると判断されますが、4t部門の収益事情を事前にきちんと説
明し、2t車乗務変更の際における勤務時間、賃金等の労働条件を明示するという手順を怠らない
ようにする必要があります