共栄ニュース 2021年12月号 「運送業の経営改善」

2021/12/01

共栄ニュース 2021年 12月号(Vol.262):ダウンロード

D県のX社は大型車両台数10台の小規模事業者ですが、荷主にも恵まれ健全経営を続けていまし
た。しかし昨年からコロナ禍の影響を受け、定期便の減便、積載効率の悪化等により赤字が続いて
いる中、さらに追い打ちをかけたのが軽油価格の上昇です。
この間、営業活動も熱心に展開しましたが受注できたのは採算の合わない仕事ばかりで走れば走
る程赤字が増大する有様でした。
X社のY社長は、「他社が同じ運賃で走っているのになぜうちだけが赤になるのか?」と
ぼやくのが常でした。
某日、知り合いの同業者から「一車一車の損益管理をしっかりすれば」との助言を受け、早速実
行するようにしました。始めは中々うまく行かなったようですが、その都度工夫をこらし、車両別
の原価管理がほぼ完全にできるようになりました。
その結果、次のことが確認されました。

1.運行3費(燃料費、修繕費、高速代)の売上高に対する比率が、乗務員によって差が大きくでる
2.乗務員の原価意識が低い
3.荷主別の収益格差が大きい
4.車両運行に係る収益は悪くないのに、会社全体の収益が悪い

また、顧問税理士の助言もあり管理会計制度を導入しました。管理会計制度は、原価部分を売上
高によって一定の割合で変化する変動費と売上高の増減に関係なく固定的に発生する固定費に分
解する制度です。
管理会計制度の長所は、変動費率削減は乗務員、固定費削減は本社と管理主体が明確になること
です。また損益分岐点が自動的に計算されます。
因みにX社の1号車の某月の車両損益表は次の通りでした。(千円未満切捨て)


①売上高         1,424,000(100.0%)
②変動費          403,000 (28.3%)
③車両に係る固定費     830,000 (58.3%)
④販売費及び一般管理費   213,000 (15.0%)
⑤営業損失         -22,000 (-1.6%)


上の表から1号車の損益分岐点売上高は、販売費及び一般管理費も固定費と見做すことができま
すので、(固定費+販売費及び一般管理費)/(1-変動費率)で算出されます。
1号車の損益分岐点となる売上高は¥1,454,600((830,000+213,000)/(1-0.283))=1,454,600)
となります。1号車が赤字にならないためには売上高を3万円(2.1%)増やす必要があります。この
場合における方法としては次のことが考えられます。

①原価計算を緻密にして荷主と運賃交渉をする
②売上げを3万円上げる
③変動費の中で主要な経費である運行3費を2%程度削減に努める
④固定費を3万円切り詰める

運送業の経営改善はターゲットを絞った取り組みにあります。それにより効果的な対策が生まれます。