共栄ニュース 2月号「荷主との価格交渉のポイント」

2023/02/01

共栄ニュース 2023年 2月号(Vol.276):ダウンロード

 近畿圏にあるX社は、近年の燃料費の高騰、人手不足による人件費の増大等により赤字体質が定着し
経営が苦しくなってきています。頼りは取引先荷主との運賃値上げ交渉です。従来から折に触れ採算悪
化を訴え主要な荷主には運賃の値上げを願い出てはいましたが中々思うようにはいきませんでした。
 このような状況に対し業を煮やした訳ではありませんがX社は運賃値上げに対して次の方針を明確に
し、最悪の場合は撤退を覚悟に臨むことにしました。

【運賃交渉に臨んでの社内取決め方針】
・従来は配車係が訪問し、窮状を説明し運賃の値上げを口頭で願い出ていたが、今後は具体的な運送
 原価を作成し、原価が高くなった原因を具体的な数字に基づいて説明する
・赤字について、これまでの経営努力を説明し、このままではなり行かなくなる旨を伝える
・現状では、コンプライアンスの遵守が難しく、最終的には荷主に迷惑が及ぶことを訴える
・従来は業務の範囲が曖昧な部分があったが、今後は運送委託契約書、覚書等の書面の取り決めを交
 わして業務の範囲を明確にし、業務範囲を逸脱した場合は別途料金が発生する旨明記する
・参考に全国トラック協会発行のパンフレット「標準的な運賃」を手渡す

 以上を踏まえ、10%の値上げを依頼した結果、最終的に初年度については3%、次年度以降について
はその都度協議していくとの回答を得ることができました。
X社にとっては100%満足する回答ではありませんでしたが、当初からいきなり満額回答を期待して
いたわけではないのでとりあえずは良しということでした。
 値上げ交渉が一定の成果に結びついたのは、従来は単に口頭及び簡単な書面でのお願いを、今回運送
原価の明細を添付したことが大きな理由となりました。運送原価の作成については、運送原価を固定費
と変動費に区分しそれぞれについて費用明細を具体的に記入して運送原価に係る費用区分の明確化
重視しました。


(例)
1.固定費合計 1,045,000円→車両月間稼働時間250時間なので1時間あたり4,100円
  車両減価償却費(減価償却、リース料)250,000円/車両に係る税金20,000円/
  保険料5,000円/乗務員人件費(法定福利費含)470,000円/一般管理費300,000円

2.変動費合計  1km当たり32.8円
  燃料費/km(燃料単価/燃費)23円
  油脂費/km(1回当たりの油脂費/交換距離)0.6円
  タイヤチューブ費/km(タイヤチューブ費/交換距離)4.5円
  修理費/km(一般修理費+車検整備費用)2.5円
  尿素水費(尿素水の給水量✕尿素水購入単価)2.2円


 X社の契約車両の1台当たりの収受運賃は従来1台平均約1,350,000円でした。
乗務員1人当たり月間平均稼働時間は約250時間、月間走行距離は12,000㎞です。この場合におけ
る運送原価は固定費(1,045,000)+変動費(393,600)=1,438,600円となります。
 現行の収受運賃は月間平均1,350,000円ですので今回の値上げ3%を見込んでも尚赤字は免れないた
め、今後について更なる値上げ交渉は避けられそうもありません。

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