共栄ニュース 5月号「定額残業制度に注意!」

2023/05/01

共栄ニュース 2023年 5月号(Vol.279):ダウンロード

トラック乗務員の給与は、殆どの運送会社で歩合給制度定額残業制度が採用されています。

今年の3月10日に定額残業制度を採用している運送事業者にとっては大きな影響を与えかねない重大な
判決が最高裁判所で下されました。「基本給、割増賃金振分け方式」による固定残業代支払いは違法とのこと
です。被告の運送会社(X社)のトラック乗務員の給与は完全歩合制で、総額を歩合給で決め、そこから基本
給相当額を引き、残りを歩合給及び割増賃金
として支払っていました。
仮に歩合給の総額を月額30万円、基本給10万円、所定労働時間173時間とすると、300,000円=
【基本給100,000円】+【基本給に対する割増賃金57,803円】+【歩合給】+【歩合給の割増賃金】となり、
法的に問題はない認識でしたが、今回の最高裁の判例ではX社の給与体系は認められません。
X社のように給与総額を歩合で決め、その金額を基本給、手当、割増賃金に振り分ける方式は、現在でも多
くの運送会社、タクシー会社で採用されています。また、類似の方式で、基本給とは別に歩合給を計算し、
歩合給の中に割増賃金を含む制度
を採用している会社も多く見られます。このような状況を考慮すると、今
後多くの地域で訴訟が頻発するのではないかとの懸念が生じます。

定額残業代(実際の労働時間とは無関係に一定の金額、割合により支給する方式)が法的に有効であるた
めには少なくとも下記の要件を満たす必要があります。

①定額残業代制度が従業員との間に合意が得られている
②通常の労働時間に当たる賃金と割増賃金に当たる賃金が明確に区分されている
③実際の残業時間に当たる割増賃金が、定額残業代を超えている場合は差額を支払っている

歩合給を採用している多くの運送会社では②と③が不十分な例が多くあります。
長距離輸送を主とし、月間の労働時間が長いZ社でも問題が発生しています。Z社の給与は、基本給10万
円で残りは運行方面別に定められた金額を歩合給とし、歩合給の50%が割増賃金相当額となっています。同
社の給与制度は、採用時に乗務員に説明し周知されています。しかし歩合給の中での通常の賃金と割増賃金
との区分は、単に50%の率が明示されているのみで給与明細には歩合給〇円、残業代〇円と半分に振り分け
られています。50%の中に殆どの場合は残業時間に対する割増手当は含まれており、過去に実際の残業時間
を超えたときの超過分の支払い事例はありませんでしたが一部不足している事例がありました。明らかに上
記②及び③の要件が不足しており、給与制度が否認され割増手当を請求される恐れが生じます。できれば早
急に給与制度を見直す必要があります。

給与制度を新たに見直す場合は次の点に留意してください。

①「最低賃金」と「残業代の未払い」が法的に問題ないか
②「割増賃金」の支払いが法的に問題ないか
特に通常の賃金と割増賃金の区分の明確性、差額が発生した際の補填事項の明記は必要です。
③給与規定の周知
従業員の過半数代表の選出が適法に行われていないために、締結した36協定が無効とされ、無効な労
使協定にも続いて行った時間外労働は労働基準法違反とされたり、支払いを命じられたりするケース
が見られます。適正な方法での過半数代表の選出が必要です。
④新旧制度を比較する
給与が減少すると不利益変更に該当する可能性があり、代償措置、緩和措置を講ずる必要があります。
⑤従業員全員への説明会を開催し、「同意書」を取る