共栄ニュース 6月号「運送事業の生産性向上」

2023/06/01

共栄ニュース 2023年 6月号(Vol.280):ダウンロード

経済学者のウイリアム・ボーモルはコスト病で「実演芸術や看護、教育のような労働集約的な部門
は人的活動に大きく依存しているため、機械や器具の技術革新によって自動化できる部門に比べると
生産性が向上しにくく、コストが高くつく」と提唱しています。作曲家のモーツァルトの代表作を演
奏するためには、現在でも変わらず4人必要で、クラシック音楽の演奏の生産性は向上していません。
運送業も人間の労働力に頼る業務の割合が多く、生産性が向上しにくいとされる代表的な労働集約型
産業
です。しかし2024年問題を抱え業務の生産性向上は待ったなしの状況にあります。
トラック運送業における生産性向上の仕組みとしては次のようなことが考えられます。


(1)少ないコスト→同じ売上・利益 ・燃費走行の推進で燃料費を削減

・修繕費、高速料等の変動費の削減

・省力化による事務経費の削減

(2)同じコスト →売上・利益の増加 ・自社の業務内容に適合したソフト開発

・配送コースの再編成(効率的な配車)

(3)コストの増加→増加コストを上回る売上・利益の増加 ・帰り荷の確保による実車率の向上

・車両の大型化


トラック運送の生産性を図る評価指標(KPI:Key Performance Indicator)としては、「実働率」
「時間当たりの実車率」「距離当たりの実車率」「積載率」の4つがあり、具体的には次の指標が用いら
れています。


【トラック運送のKPI】

①トラックあたりで見た場合
(稼働時間+非稼働時間) → 実働率を上げる
回転数、稼働時間を上げることで輸送量を増やす

②トラックの稼働時間で見た場合
(走行時間+休憩時間+積卸し作業時間+待ち時間)
積卸し作業時間、待ち時間を減らすことで投入時間を減らす
走行時間を増やし、輸送量を増やす

③トラックの走行状況で見た場合
(実車距離+空車距離)
実車距離を増やし空車距離を減らすことで輸送量を増やす

④トラックの積載状況で見た場合
(積載重量・容量)+(空き重量・容量)
実車している間はなるべく多くの荷物を運ぶことで輸送量を増やす


生産性の計算に用いるデータは複数ありますが、付加価値〈経常利益+人件費+租税公課+金融損益
+施設使用料〉を総実労働時間〈乗務員数×1人当たりの労働時間〉で割ったものが一般的に用いられ
ています。つまり生産性を向上するには、付加価値を増大させるか、労働時間数を削減しなければなり
ません。

運送業務従事者の1か月当たりの平均労働時間は195.7時間と平均的な労働者に比べ20.5%長くな
っています。これまで長時間労働が容認されていたトラック乗務員の時間外労働も2024年度から制限
され、労働時間が減少します。運送事業者にとって生産性向上は必然的な課題となってきます。

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