共栄ニュース 8月号「定年後再雇用者の賃金」

2023/08/01

運送業界では60歳定年後も引続き再雇用の形で勤務を継続しているトラック乗務員に対する依存度が大き
くなっています。再雇用後の賃金は定年前に比べ、引き下げられているケースが大半です。再雇用の際の賃
金については過去の裁判例においても一定範囲の減額は容認されています。これまで各種手当の支給要件や
減額幅の是非については議論の対象となりましたが、基本給の減額についての具体的な判断が新たに出され
ました。
定年まで勤務した男性2名(原告)は60歳の定年後も1年更新の嘱託社員として65歳まで働いていました。
仕事内容は定年前と全く同じでした。しかし定年前の基本給が180,000円であったのに対して、再雇用後の1
年目は80,000円、2年目は74,000円と大幅に下がりました。
基本給引き下げを巡るこの訴訟の概要は以下の通りです。


原告(定年後再雇用者)の主張 被告(会社側)の主張
 定年後仕事の内容が変わらないのに基本給が40~50%に減額されたのは不合理で違法である。  若手社員の雇用の確保や会社の経営状況を考慮すれば不合理ではない。
 

一審(地方裁判所)、二審(高等裁判所)の判断

 労働者の生活保障の観点からも看過しがたい。正社員の60%を下回る部分は違法である。
 

最高裁判所判決

 基本給の性質や目的を踏まえて不合理かどうかを判断する必要がある。これについては一審、二審は十分に検討しておらず、判決を破棄し高裁に差し戻し。

最高裁の今回の判決内容では、被告(会社側)の正社員の基本給について、勤務年数に応じて支給される
勤続給だけでなく、仕事の内容を反映した職務給、能力を踏まえた職能給の性質もあるとみる余地があると
指摘があり、その上で再雇用の場合は役職に就くことも想定されていないことなどから「正社員と異なる性
質や支給の目的がある」
と述べられています。下級審ではこうした正社員や再雇用者の給与の性質や目的に
ついて十分に考慮されていないとして、再度検討するように審理を高裁に差し戻しました。
一審、二審では「労働者の生活保障の観点からも看過しがたい水準として正社員時の基本給の60%を下回
る」部分を不合理と判断されていました。 しかし、最高裁では過去の別訴訟事例で定年退職後の再雇用等
で待遇に差が出ること自体は不合理ではないとの判断が出されており、その場合「賃金総額の比較だけでな
く、賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきだ」
との考え方が示されています。
厚生労働省の「高年齢者の雇用状況等報告」(2022年6月発表)によると、65歳までの雇用確保措置を講じ
ている企業(従業員規模31人以上)は99.9%とほぼ全企業が実施しています。さらに70歳までの就業確保措
置についても中小企業では26.2%、大企業では17.8%が実施済みとなっています。
60歳以上の高齢者乗務員の活用は、視力や体力の衰えを鑑みての適切な仕事内容への従事、健康・安全管
理、環境整備、若手社員への配慮、働き方の選択肢、給与体系やモチベーション
など配慮する点は多々あり
ますが、今後とも益々重要となってきます。
賃金については定年前に比べ減額するのが一般的ですが、総額の一定割合を減額するのではなく賃金項目
を明確にし、それぞれの項目についての性格を検討し判断する必要があります。その場合最も重要なのは基
本給です。基本給の構成要素を勤続年数、職務内容、職務遂行能力かを明確にし、それらの要素に応じ合理
的な判断基準に応じ減額する
必要があります。

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