共栄ニュース 9月号「最低賃金の上昇と影響」
2024/09/02
厚生労働省の諮問機関である中央最低賃金審議会が開催され10月から実施される今年の最低賃金は全国平均(加重平均)で50円の引き上げで決定しました。今後、各都道府県の審議会でそれぞれの地域の具体的な最低賃金額が決まりますが、過去の例では目安の金額となる見通しです。答申通りであれば、最低賃金の全国平均額は1,054円となります。
直近年度の全国平均額は次のように推移しています。
最低賃金はここ数年に急激に上昇しており、背景としては次の点が考えられます。
①物価の上昇(26か月連続実質賃金の低下)
②コロナ禍からの企業業績の回復
③人手不足対策
④生活保護との格差是正
またこれらの要因とは別に、諸外国に比べ国内労働市場の特殊性もあります。
2023年時点での国内の雇用労働者は6076万人となっていますが、そのうち非正規雇用者(パート、アルバイト、契約社員、派遣労働者)は2124万人、その割合が35.0%となっています。また、これら非正規労働者の年収200万円未満のワーキング・プア(働いている貧困者)の割合が68.8%となっています。
正規労働者についても年収200万円未満の人が311万人います。これらを合わせると日本国内には年収200万円未満の人が全雇用者の29.2%となります。
格差是正、貧困者対策の視点からも最低賃金は大幅に引き上げざるを得ない状況にあります。政府も2030年代の半ばには全国平均で1500円を目指すとの方針を打ち出しています。しかし企業側からすればこれらが大幅な人件費の上昇につながり特に中小企業においては経営の圧迫要因になります。最低賃金の引き上げによる2023年度の影響率(現在の賃金が改正後の最低賃金額を下回ることとなる労働者の割合)は21.6%と高くなっています。時給50円のアップは月額にすれば1人当たり8,500円(1か月170時間)の負担増となります。
構内作業従業員の75%がパートタイマーである北陸地区のX社の場合、今回の引き上げで月額1人平均9,000円のアップを見込まざるを得ませんがそれに伴う社会保険料の会社負担額の増加、残業の際の残業単価への跳ね返りを考慮すれば深刻な経営問題となります。
同社の今後の重要な課題として、パート従業員の生産性向上を挙げています。そのために同社ではパート職の役割等級制度を設計し、役割に応じた賃金制度の実施を検討しています。賃金の上昇に伴い、今後一人一人の生産性を向上することは必須と言えます。
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